川上弘美「夜の公園」(中央公論新社)を読んだ。
待望の川上さんの小説が出版されました。エッセイ集を除く本格的な小説となるとちょうど一年前の「古道具 中野商店」以来です。待ち遠しかったですね。 2002年9月号から2005年6月号まで「中央公論」に断続的に連載されたようです。「リリ、夜の公園」「幸夫、小高い丘の頂上」「春名、吹かれる川辺の葦」「暁、白く曇った窓」「リリ、水を湛えた器」「幸夫、頬を伝う雨粒」「春名、嵐の海」「暁、重なる息」「リリ、羽搏く鳥の影」の9編の連作長編小説です。 それぞれの登場人物の名前を使ってシンメトリックな表題を付けています。そしてそれぞれの内容も、表題の登場人物の視点から描かれています。けっこう洒落ていますね。 ストーリーとしては「リリ」と「幸夫」夫婦の相互不倫と不倫相手の子供の妊娠、そして別れといった、いたってシンプルなものですが、その相互関係はいささかこみ入っていて、「幸夫」の不倫の相手「春名」は「リリ」の親友であり、なおかつ「リリ」の不倫の相手「暁」は「春名」のもう一人の恋人「悟」と兄弟という何とも言い難い関係ですね。そして最後には「悟」が「春名」に心中を図るといった展開です。 夜の公園から始まった物語は、最後はみんなバラバラに別れてしまい、「ほろほろと秋が去る」昼の公園で物語は終わります。 でも、川上ワールドですから、ドロドロした感じは微塵もありませんね。象徴的な聖空間みたいなもんですね。 つかみどころのないふわふわした感情をすっととらえてくれている感じですね。満たされない違和感やさみしさ(孤独感)といった感情がうまく出ていますね。そしてこころにしみこむような表現はあいかわらず素晴らしいですね。 ということでゴールデンウィークのまっただ中の一日は川上ワールドを堪能しました。いつもながら文章を読む喜びを感じさせてさせてもらいました。 でも川上さんの世界も少しずつ変わってきてる気もしますね。早くも次回作に期待ですね。
by daisenhougen
| 2006-05-02 07:53
| 読書-詩歌小説評論他
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