粟屋憲太郎 「東京裁判への道」(上)(下)(講談社選書メチエ)を読んだ。
最近話題になっているA級戦犯について知りたいと思って読んでみました。 まず、目次を写しておきます。序章 東京裁判資料を追って、第1章 日本敗戦と戦争犯罪問題、第2章 国際検察局の設立、第3章 近衛文麿の自殺とその波紋、第4章 木戸幸一の大弁明、第5章 昭和天皇の戦争責任問題、第6章 陸軍の「怪物」による内部告発、序章 日本側の自主裁判構想、第7章 起訴状の提出、第8章 A級戦犯容疑者の釈放、第9章 細菌戦、毒ガス戦の免責、第10章 訴追と免責の岐路、むすび そして開廷へ。 著者の粟屋憲太郎(1944-)さんは日本近現代史専攻の学者さんで、立教大学文学部教授とのことです。はじめて読む人です。 「朝日ジャーナル」に1984.10.12~1985.4.12に連載したものの出版とのことです(懐かしい雑誌ですね、でも歴史学ってこんなに悠長なんですかね)。 アメリカに残されているA級戦犯(及び容疑者)に対する検察側の膨大な調書によって、東京裁判の訴追に至る経緯を描いた著作です。 A級戦犯として訴追されることが、アメリカの占領政策及び国際情勢に大きく影響された様子がよくわかりますね。様々に揺れ動いた基準や情勢の変化、圧力等によって訴追が決まっていったんですね。そういう意味では公平さからはほど遠かったのが良くわかりますね。「運」といったものを考えざる得ませんね。 マッカーサーが国際裁判所ではなく真珠湾奇襲の罪で米国の裁判で裁くことに固執したなんて話も、現在でも日本人に対してアメリカ人の抱いている感情なのかもしれませんね。 また、笹川良一をはじめとして、戦犯を逃れるために卑屈に振る舞い、弁明した様子も調書を基にけっこう詳しく描かれていました。 ただ、大部の著作で、しかも題名通り訴追までの期間しか描かれておらず、東京裁判全体を論じてはいないにもかかわらず、論点がちょっと散漫で、尚かつきっちり突っ込んだ論述がされていない印象でした。例えば天皇不起訴についても、なんら新たな視点が見いだせませんでした。 さらには、断片的な著者の人物評価があんまり実証的でもない形で散見されているのも感心しませんでした。 「膨大なアメリカに残された検察調書を調べましたんで、みなさんに興味を引きそうな部分を抜き出して紹介します」といった本ですね。きっちりした東京裁判論を期待すると思いっきり裏切られちゃいますね。
by daisenhougen
| 2006-09-29 05:56
| 読書-詩歌小説評論他
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