川上弘美「真鶴」(文藝春秋)を読んだ。先月の「ハヅキさんのこと」に続いての川上さんの小説です。
まずは装幀が斬新ですね。白い箱に「真鶴」と、朱色で大きな文字が描かれています。さらに表紙は高島野十郎の絵「すもも」が使われています。野十郎の絵を持ってくるなんてさすがですね。何か川上さんの変貌を予感させるような装幀です。非常に新鮮な感じを受けました。 「文学界」に連載されたもので、連作ではない本格的な長編作品です。 まず、この作品では文体をかなり意識的に変えているようです。断定調で短いセンテンスをつなげる様に文章をつづっています。いままでの川上さんのちらかと言えばフンワリとした文章とはかなり印象が違って見えます。 さらに内容的にも、男女間の関係をフンワリと優しくつつむように描くストーリーとは明らかに違ってきていますね。 男女間の関係の越えがたい溝とか、子供の成長にともなう一体感の喪失とか、近づきつつある老いへのおびえとか、内面をえぐるような作品になっています。いままでの川上作品の幅を大きく広げたようです。 以前、「夜の公園」を読んだ感想で、「川上さんの世界も少しずつ変わってきてる気もしますね」と書きましたがhttp://daisan.exblog.jp/3040967/、本作で川上さんは大きく変わったと思います。男女間のふんわりした恋愛話を書くことに倦いたのかもしれませんね。大きなジャンプのような気がします。 これからの川上さんは更に大きく変わっていくような気がします。期待大です。 でも、登場人物の名前の付け方は相変わらず面白いですね。主人公は「京」、失踪した夫は「礼」、恋人は「青茲」といった具合で川上さんらしい命名です。 更には「真鶴」といった題名の響きもや字面も素敵ですね。こういった詩的ともいうべき言語感覚は川上さんの大きな魅力の1つですね。こちらは大事にしてほしいですね。
by daisenhougen
| 2006-11-01 06:20
| 読書-詩歌小説評論他
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