粟津則雄「日本人のことば」を読んだ。
集英社(集英社新書)、2007年10月22日第1刷、714円、新書判、221頁。 「東京新聞」夕刊に「ことばの泉」として2003年1月7日から2006年9月26日まで毎週連載したものとのことです。百八十五の断章が集められた詩華集です。 わたし、割とこういったアンソロジーが好きです。このブログ始めてからだけでも、桶谷秀昭「日本人の遺訓」、吉本隆明「思想のアンソロジー」、大岡信「新折々のうた9」なんてのを読んでます。 粟津則雄(1927-)さんはフランス文学の翻訳をはじめとして、美術、音楽、文学まで幅広い評論活動をしている人ですね。 「あとがき」にも少し書かれていますが、かなりひねった作りとなっています。 冒頭に宮沢賢治ではなく、姉の宮沢トシをもってきて、「うまれでくるたて/こんどはこたにわりやのごとばかりで/くるしまなあよにうまれてくる」を挙げ。次に太宰治ではなく、太宰が自死のとき書き写した伊藤左千夫の歌「池水は濁りににごり藤なみの影もうつらず雨ふりしきる」を挙げ。更に中原中也ではなく草野心平の「中原よ。/地球は冬で寒くて暗い。/ぢや。/さようなら。」を挙げると言った按配です。渋い選択ですね。 でも、全てがこういった選択だけではありません。 西行は二首挙げていますが、その内一首は「ねがわくは花のしたにて春死なんそのきさらぎの望月の頃」なんて超有名ない歌を挙げてますし、茂吉も有名な「あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり」です。かなり普通の選択です。 こんな風に普通の選択とひねった選択がうまく配分してあるように見えます。 歌人や俳人はもとより近現代詩人、僧侶、小説家、評論家と選んだ人選はかなり幅広いですね。更に粟津さんらしいのは、北斎から香月泰男まで多くの画家のことばを収録していることです。多くの絵画論を書いている粟津さんならではですね。 巻末の索引を眺めていたら変なことに気がつきました。一番若いのが1928年生まれの島田修二さんです。ここの選ばれている人は粟津さんの同年代以上の人であるんですね。 以前、誰かか年下の人の著作は読む気がしなくなったと書いていました。粟津さんもそういった心境なんでしょうかね。 かなり読み応えのあるアンソロジーでした。手元において、折に触れて読み返したい著作です。
by daisenhougen
| 2008-01-04 20:47
| 読書-詩歌小説評論他
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