夏目漱石「道草 (漱石全集 第十三巻)」を読んだ。
夏の読書の漱石2冊目は道草です(1冊目の「こころ」の感想はこちら)。 こちらも30年前の新書版の全集で読みました。 1915年6月03日から9月14日まで百二回に渡って「朝日新聞」に連載されたとのことですから「こころ」の翌年です。漱石48歳の作品とのことです。 故郷、東京に戻ってきて、亡霊のように襲い来る養父母や兄や姉などの親族関係に直面する姿を縦糸に妻とのぎくしゃくした夫婦関係を横糸に知的エリートの姿を描き出しています。 「彼の心のうちには死なない細君と、丈夫な赤ん坊の外に、免職になろうとしてならずにゐる兄の事があった。喘息で斃れるやうとして未だ斃れずにゐる姉の事があった。新しい位地が手に入るやうでまだ手に入らない細君の父の事があった。其他島田の事もお常の事もあつた。さうして自分と是等の人々との関係が皆なまだ片付かずにゐるといふ事もあった」といった具合です。 遙か昔に読んだときには、単なる露悪的な自伝小説としか読めませんでした。 でも、今回読み返してみて、全く印象が変わりました。 人と人の関係を究極まで突き詰めて描き出しています。複雑に絡み合った人間関係をひとつひとつ解剖するように、身も蓋もないほどにあからさまにされています。 徹頭徹尾、人間の関係性を描ききった驚嘆すべき小説なのがわかります。 けっして漱石の秘密を解き明かすなんて、生半可な小説じゃありません。 とりわけ印象的な最後の部分を写しておきます。 「世の中に片付くなんてものは殆どありやしない。一遍起こった事は何時迄も続くのさ。ただ色々な形に変るから他にも自分にも解らなく丈の事さ」 健三の口調は吐き出す様に苦々しかつた。細君は黙って赤ん坊を抱上げた。 「おお好い子だ好い子だ。御父さまの仰しやる事は何だかちつとも分りやしないわね」 細君は斯う云ひ云ひ、幾度か赤い頬に接吻した。 次は最後の小説「明暗」に挑戦ですね。 岩波書店、1979年06月05日第5刷(1957年01月28日第1刷)、800円、新書版、256頁。
by daisenhougen
| 2008-08-13 06:52
| 読書-詩歌小説評論他
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