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吉増剛造「表紙 omote-gami」を読む

吉増剛造「表紙 omote-gami」を読む_d0001004_754918.jpg 吉増剛造「表紙 omote-gami」を読んだ。
 「現代詩手帖」の表紙写真の連載とその時期に撮られた写真と日記、それに幾つかの詩をあわせた作品集です。
 分類としては詩集というよりは写真集というべきなんでしょうね。
 ただ、写真集といってもフルパノラマサイズで多重露光の重ね撮りの作品です。日記から推測するに富士フイルムのTX-2というカメラで撮られた作品のようです。
 そもそも写真というものは、あまりに明快すぎるところがあって、ひと目でわかった気にさせてしまうことがあります。
 その為、じっくりとその中に込められた意味を読み解くことが、しにくい表現形態かもしれません。
 その特性に対抗するかのように、詩人たる吉増剛造(1939-)さんは、これらの写真を多重露光の重ね撮りによって、意味の多重性を持たせて、わざわざ難解にしています。
 写真に込められた表現を、じっくりと読み解くことを強いています。
 写真表現による現代詩的表現の試みともいうべきでしょうか。
 写真と一緒に納められた詩ともいうべき日記を手がかりに、写真を行ったり来たりしてみました。
 なんとはなしに芸術写真のようであり、かなりサマにはなっている表現ではあります。
 でも、いまひとつ心に染みこんできません。
 面白い試みではあるんですが、何かがたらないといった印象でした。この試みにミューズはまだ微笑んではくれていないのかもしれません。
 詩人の余技としては面白い気もします。
 近年の吉増さんは詩だけでなく絵画的表現や映像表現まで領域を拡げているようです。果敢な試みに期待は大きいですが、表現が薄まったり、拡散しないことを祈ります。

 思潮社、2008年04月25日発行、5,040円、B5版、173頁。

by daisenhougen | 2008-08-26 06:53 | 読書-詩歌小説評論他
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