昨日(08月31日)「シネ・アミューズ」で映画「この自由な世界で」を見た。
ケン・ローチ監督の作品といえば2006年にカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した「麦の穂をゆらす風」を見て感銘を受けましました(その時の感想はこちら)。 今回は2007年ヴェネチア国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞ですから、見逃すわけにはいきませんね。 こちらの映画館は初めてですが、スクリーンの位置が少し低いのが気になりました。ずーっと前の人の頭が邪魔でした。 満席状態なのもビックリでした。硬派映画にこれだけ多くの人が見に来てるのは頼もしい限りです。 さてこの作品ですが、イギリス社会の抱える問題を正面から描ききっています。 しかも甘っちょろい一面的なヒューマニズム的作品ではなく、現代社会の抱え持つ両義的側面を見事に表現しています。 子供を両親に預けて、移民の専門の人材派遣会社で働くシングルマザー(アンジー)がセクハラに反発した為に、会社をクビになるところから物語は始まります。 お金を稼ぐ為に自ら人材派遣会社を立ち上げ、低賃金で働かざる得ない移民を集めて、徐々に成功をおさめていく過程を描いています。やがては不法移民の手配やあこぎなピンハネを当然と思うようになっていきます。 最初は法律を守ったささやかな成功を望んでいただけなのに、一歩の成功は更なる成功を求めて、法律を破るだけではなく、人間としての倫理観すら喪失していく様は、現在の「自由な世界」の大きな特徴ですね。もしかしたら誰でもこうなる可能性を持っているのかもしれません。 そして、本国で食い詰めてしまいった人々は移民となって、いくら低賃金でも職を求めてイギリスを目指し、一方低賃金で働く人であるなら誰でも良いというイギリス企業があり、そしてそれを結びつけピンハネする職業が成立するにいたった現代の「自由な世界」も示されています。 これらの現代世界の矛盾を告発とか断罪するといった形でなく、アンジーの奮闘する姿を丁寧に描きながら、一場面一場面の当たり前な情景描写の中で浮かび上がらせています。見事なもんです。 今回も素晴らしい作品に出会えました。 2007年、イギリス=イタリア=ドイツ=スペイン、原題:It's A Free World。 監督:ケン・ローチ、脚本:レベッカ・オブライエン、出演:キルストン・ウェアリング、ジュリエット・エリス、レズワフ・ジュリック、ジョー・シフリート、コリン・コーリン。
by daisenhougen
| 2008-09-01 07:30
| 鑑賞記-映画
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