平川新「開国への道 (全集 日本の歴史 第12巻)」を読んだ。
江戸後期を扱う今までの歴史書であったら、開国そして倒幕への政治的動きが中心に叙述されるのが通例ですが、このシリーズの面目躍如といった感じで、そのあたりは極めて素っ気なく描かれているだけです。 その代わりに、その当時の世界情勢を「環太平洋の時代」と捉え、ヨーロッパの国々だけでなく、ロシアやアメリカが太平洋に進出し領土獲得競争が始まった時代とし、その世界情勢の中で江戸後期を描き出しています。その帰結として開国があると位置づけですね。 国内的には「世論政治の時代」として、単なる武士階級による専制的な支配体制と言った見方の転換を目指しています。 各階層の世論を意識して支配する段階に入っていたんですね。 その中から「庶民剣士の時代」として、支配階級のシンボルたる武術についても大幅な常識の転換を迫っています。 このあたりは面白すぎといった部分ですね。 なにはともあれ、武士の特権的な位置づけの修正を迫っています。 更には、大塩平八郎をかなり低く評価したり、水野忠邦を高く評価したりと、今までの固定的な先入観を揺さぶってくれてもいます。 レベルの高いこのシリーズの中でもベストスリーに入る一冊です。 読書の楽しみを満喫させてくれるスリリングな本でした。 ところで付録の「月報」に山下裕二さんの「今月の逸品」が掲載されています。 一枚の絵画作品を短いスペースで紹介しているんですが、なんせ山下さんですから、かなりひねった選定で毎回楽しませてもらってます。 今回は、増上寺に所蔵されている狩野一信「五百羅漢図」が紹介されていました。 2011年に100幅を一挙公開の企画を進めているとのことです。山下さんが最も力を入れている「隠し球」だそうですから、公開が待ち遠しいですね。 著者の平川新(1950-)さんは日本近世史専攻の東北大学教授。 目次:第1章 環太平洋時代の幕開け;第2章 漂流民たちの見た世界;第3章 鎖国泰平国家から国防国家へ;第4章 世論政治としての江戸時代;第5章 天保という時代;第6章 庶民剣士の時代。 小学館、2008年11月30日初版第1刷、2,520円、A5版、258頁。
by daisenhougen
| 2008-12-18 09:06
| 読書-詩歌小説評論他
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