三島由紀夫「天人五衰」(新潮文庫)を読んだ。昨年から読み続けている「豊穣の海」4部作の第4部(最終巻)です。「新潮」に昭和45年7月から昭和46年1月まで連載されました(自決前に原稿を渡し、本当の意味での絶筆ですね)。昭和46年2月に単行本として刊行されました。
老年になった本多が輪廻転生の証しのホクロのある安永透を養子にするが、結局は夭逝することなく盲目の中に生き続けるといった、全巻の主題である輪廻転生を否定するようなストーリーです。 更には、出家した綾倉聡子に会いに行くが松枝清顕の存在すら否定するといった結末です。 最後のシーンは庭の描写で終わっています。 「そのほかには何一つ音とてなく、寂幕を極めている。この庭には何もない。記憶もなければ何もないところへ、自分は来てしまったと本多は思った。 庭は夏の日ざかりの日を浴びてしんとしている。・・・・・」 三島は彼が一生追い求めた「物語」すら否定して死んだのですね。そういった意味では壮絶な小説ですね。 この巻も第3部におとらず仏教についての考察に満ちています。「天人五衰」の意味も説明してあります。いろいろ説明してありますが、肝心の「大の五衰」は、 1、浄らかだつた衣服が垢にまみれる 2、頭上の華がかつては盛りであったのが今は萎み 3、両腋窩から汗が流れ 4、身体がいまわしい臭気を放ち 5、本座に安住することを楽しまない 45歳の三島にとっては自らに兆してきた、この兆候が耐えきれなかったのかも知れませんね(人ごとではないですがね・・・)。
by daisenhougen
| 2006-01-11 08:08
| 読書-詩歌小説評論他
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