佐佐木幸綱「歌集 百年の船」(角川書店)を読んだ。
佐佐木さんの第十四歌集です。 今回の歌集は「はじめての雪」以降の2003年、2004年、2005年の作品です。毎年の最初と最後の歌を写しておきます。 2003年 てのひらのはるよわよわし 拾い来し雛の目白がふるえつづけて 立春の日の夜空飛ぶネグリジェの大群 明日の天気は晴 ケイタイをまず開き見る少女居て教室に日常の風なだれ込む 2004年 夕方の路地にサッカーする子供三人 青き青きうす靄 制服姿の佐佐木定綱とすれ違う <われ>はわが家の階段のぼる みなぎりて岸打つ水に抱かれて鯉の妻らのエクスタシー うっううっ 2005年 絶頂できらりひかりて追羽根はむかしの空の青を落ちくる 百年前の空があらわれ日をふらす 日露戦争戦中の空 君の<われ>に私の<われ>を重ねつつ待っていたんだ 百年の船 どの作品も高い水準の歌ですね。でもインパクトがないですね。技術だけで作っていると言った感は否めません。岡井隆さんのような実験精神がないんですね。そこが食い足りないです。「あとがき」で述べているオノマトペの多用も成功しているとは思えませんでした。 短歌界のサラブレットも長い長い低迷期を脱してはいません。デビュー直後のすばらしい作為品群の後はパッとしませんね。多くの歌人とおなじで若書きの作品を超えられないんでしょうか。 やっぱり塚本邦雄、岡井隆、寺山修司の輝かしい戦後短歌と俵万智、穂村弘たちの世代に挟まれた橋渡し役で終わってしまうんでしょうか。岡井隆さんを見習って、老年短歌の傑作をモノにしてほしいですね。 ところで、歌集とはあんまり関係ないんですが、「あとがき」に美術好きには面白い話が書いてありました。 「モジリアーニの女ばかり座れる電車なりわが目の奥に血のにじめれば」という自作の歌を引いて、眼底出血した時、実際に異常に長く、曲がったように、ねじれて女性の顔が見えた体験で作った歌であり、モジリアーニの独自な絵も彼自身が眼底出血体験者で、実際に見えたように描いたのではないかと推測していた。体験した人しかわからない話ですね。
by daisenhougen
| 2006-04-13 06:54
| 読書-詩歌小説評論他
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