湯原かの子「藤田嗣治 パリからの恋文」(新潮社)を読んだ。近藤史人「藤田嗣治「異邦人」の生涯」に続いて読む藤田嗣治の評伝です。
目次は次の通り。序章、第1章 妻とみに宛てた書簡、第2章 第一次世界大戦下のフランス、第3章 エコール・ド・パリ、第4章 第二次世界大戦と戦争画、第5章 国境を越えて、終章。 藤田嗣治の生涯を年代順に書いた本です。今回の展覧会を当て込んでの出版ですね。宣伝では「いまヴェールをぬぐ若き嗣治の愛」なんてのが強調してあり、副題にもなっていますが、内容的には特に強調するほどのことはありませんね。多分、最初の奥さん宛の残された手紙や写真を収録したことぐらいしか特色がないのから、こいった宣伝になったんでしょうね。 その後も年代順に藤田嗣治の生涯を描いていますが、所々に語られる著者の浅薄な感想にはイライラさせられました。評伝なんですから、事実関係をキチンと記述することと、その歴史的位置づけをしっかりしてほしかったですね。 著者は芸術家の評伝を専門とすると紹介してありましたが、感度の鈍い悪しきジャーナリストと悪しきフェミニストとしか思えませんでした。彼女には人間の評伝を書くことに対する畏れみたいなものが欠如しているのではないでしょうか。人間の持つ二面性や行動の矛盾をお気軽に断罪されてはたまりませんね。そして何より、藤田嗣治に対しての愛情が感じられないのは致命的でした。 ただ、最終章で、高村光太郎と藤田嗣治を「対照的に見えながら、実は、近代日本の西洋受容の補完的関係をなしている」とのしてきは納得できました。こういった視点から、しっかりとその生涯を描き出してほしかったですね。 でも、対象(この場合は藤田嗣治)に対する思い入れがない人の書いた評伝は本当に駄目ですね。読んでいて悲しくなりました。
by daisenhougen
| 2006-05-12 06:12
| 読書-詩歌小説評論他
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