辻惟雄「奇想の江戸挿絵」を読んだ。
いやいやまたもやすごい本を出してくれました。辻惟雄健在なりですね。 北斎といえば日本を代表する絵師であり続けています。でもその多才な作品群から江戸挿絵を取り出してくる着眼点の鋭さはまさしく時代を何歩もリードしてます。 だれもモノクロで粗末な紙に刷られた怪奇小説の挿絵に注目しませんね。それを敢えて取り上げて、その魅力をアジテートするんですから脱帽です。 なんてったって馬琴と北斎という文字表現と絵画表現のゴールデンコンビの競作なのに誰も注目してこなかった領域ですからね。 描かれているのが「異界」、「生首」、「幽霊」、「妖怪」てんですから半端じゃなです。江戸文化の爛熟ぶりと奥の深さが垣間見える領域ですね。まさしく奇想でしょうか。 新書の形態での出版ですが、多数のというか、ほとんどが図版で占められていて、その素晴らしさがビジュアル面でも確かめることができました。 江戸挿絵の魅力が十二分に伝わった著作でした。北斎をはじめとした浮世絵絵師の作品の中で正当な位置づけがされる切っ掛けとなるかもしれませんね。 同じ時期に同じ新書という形態で出版された「岩佐又兵衛」(感想はこちら)と同様に辻さんが長年にわたって奇想の画家のキーワードで発掘してきた中で、世間的な認知度が進んでいない「江戸挿絵」をなんとしても復権したい意欲の表れですね。 ただ、認知度を上げるには作品の展示の際に工夫が必要かもしれません。 今までも何度か実際に展覧会の最後辺りにひっそりと展示してあるのに遭遇してますが、ザーッと駆け足で通り過ぎていました。 ほとんどが冊子の見開き1ページがガラスケース越しに見ることができるだけで、どちらかといえば資料展示みたいな扱いでした。紙も粗末なものだったからでしょうが変色していますし、展覧会会場では貧相で目立ちませんでしたね。 挿絵部分だけでも大胆に額装か何かで装丁し直して、連続して見せるぐらいは最低必要でしょうね。細部を見ないと何が何だか解りませんから間近に見ることも必須です。紙の古さを感じさせないような照明の工夫も必要かもしれません。 どこかでこういった工夫を凝らした展覧会でも開催してくれないでしょうかね。 集英社(集英社新書ヴィジュアル版)、2008年04月22日第1刷、1,050円、新書判、208頁。 目次:はじめに 江戸後期挿絵の魅力、第1章 「異界」を描く、第2章 「生首」を描く、第3章 「幽霊」を描く、第4章 「妖怪」を描く、第5章 「自然現象」を描く、第6章 「爆発」と「光」を描く、第7章 デザインとユーモア。
by daisenhougen
| 2008-04-29 06:55
| 読書-詩歌小説評論他
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