林佳世子「オスマン帝国500年の平和(興亡の世界史10)」を読んだ。
この「興亡の世界史」シリーズは玉石混淆で当たりハズレが極端なのですが、この巻はあきらかに当たりです。前巻がひどすぎたので、一層引き立ちますね(前巻の感想はこちら)。 わたしにとってはオスマン帝国といっても、漠然としたイメージしか持っていませんし、持っている知識もわずかなものです。 でも、そのイメージをことごとく修正してくれますし、更には現代に繋がるいろんな知見を教えてもらいました。 派手な作りではないですが、堅実な素晴らしい著作でした。 オスマン帝国の創世から崩壊までの500年を年代を追いながら記述していますから、歴史書としては極めて正統的です。 その記述を通じて、オスマン帝国の歴史についてほとんど予備知識のない初心者にも、チョットしたオスマン通を気取れるぐらいの、ひととおりの知識を授けてもらえます。 そしてこちらの方が肝心ですが、紛争の火薬庫ともいうべきバルカン半島と中東地区を500年にもわたって統治し続けた秘密もキチンと歴史的に説明してくれてます。 例えば、現在のトルコがアナトリア地区にあるので、誤解されるけれども、そもそもオスマンはバルカンの大国として出発した国であること。 更にはトルコ人の民族国家では断じて無く、多くの他民族を支配層に取り込んだ多民族の帝国だったこと。 そして、イスラム教も統治のための宗教ではあったが、多くの宗教の自由が認められており、現在のようなイスラム国家でもなかったこと。 このようにオスマン・トルコといったイメージを裏切ってくれる様々な知見が満載の著作でした。 現在の民族国家や宗教原理主義に対する一つの解決の方向性を示唆するものでもあるかも知れません。 著者の林佳世子(1958-)さんはイスラム史専攻の歴史学者で東京外国語大学教授とのことです。 目次:第1章 アナトリア――1050~1350、第2章 バルカン――1350~1450、第3章 戦うスルタンの旗のもとで――1450~1520、第4章 スレイマン1世の時代――1520~60、第5章 オスマン官人たちの時代――1560~1680、第6章 近世オスマン社会を生きる、第7章 繁栄のなかの不安――1680~1770、第8章 オスマン体制の終焉――1770~1830。 講談社、2008年10月24日第1刷、2,415円、四六変型、392頁。
by daisenhougen
| 2008-12-03 08:00
| 読書-詩歌小説評論他
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