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塩野七生「ローマ亡き後の地中海世界 上」を読む

塩野七生「ローマ亡き後の地中海世界 上」を読む_d0001004_1018381.jpg 塩野七生「ローマ亡き後の地中海世界 上」を読んだ。
 塩野さんの超大作「ローマ人の物語」の最終巻である15巻目を読んだのが2007年の初めでした(その時の感想はこちら)。
 一年に一度の恒例の読書がなくなって寂しい思いをしていましたら、思いもかけずに続編とも言うべき著作が刊行されました。
 しかも上下巻で、上巻だけでも350ページの大作です。これは読むしかないですね。
 下巻が1月刊行ということですので、下巻刊行前になんとか読み終えました。
 内容的には、栄光の輝かしきローマが滅亡し、蛮族に蹂躙されるところで「ローマ人の歴史」15巻が終わっていましたが、今回はその続きとも言うべき作品です。
 ローマ滅亡と入れ替わるように、イスラム国家が地中海世界を支配し、著者の言う「海賊」に蹂躙されるイタリア半島の人々が描かれています。
 地中海世界の中世とはいかなる時代だったのかが、これでもかこれでもかといった事実の提示で示されます。
 強奪と殺戮と拉致が平然とおこなわれた、イスラム教とキリスト教の一神教同士の激突の時代です。
 ローマ滅亡後、こんな時代(いわゆる中世)が1,000年も続くんですね。
 しかも圧倒的に優位だったのはイスラム教側だった厳然たる事実もしっかり示されています。
 ほんの少しの救いなのでしょうか、シチリア支配が他宗教の排除なしでおこなわれたことや、拉致された住民の宗教団体と騎士団による救出活動についても触れてありました。
 巻末にはイタリア沿岸の海賊監視塔「サラセンの塔」の分布地図と塔の風景写真がカラー刷りで掲載されています。
 この美しさには感動ものです。
 鮮やかな海の美しさと廃墟の塔の風景の中に、これらの殺戮の歴史に対する著者の思いが込められているのかもしれません。

 目次:海賊、はじめに、第一章 内海から境界の海へ(イスラムの台頭/サラセン人/海賊/拉致/さらなる進出/神聖ローマ帝国/狙われる修道院/「聖戦(ジハード)」/スキピオを夢見て/ローマへ/パレルモ陥落/北アフリカのイスラム社会/ガエタ、ナポリ、アマルフィ/再びローマへ/「聖戦(グエッラ・サンタ)」/「海の共和国」/「サラセンの塔(トッレ・サラチェーノ)」/シラクサ落城/「十字軍時代」以前の十字軍)、間奏曲(インテルメッツォ)(ある種の共生「イスラムの寛容」/イスラム・シチリア/地中海の奇跡)、第二章 「聖戦(ジハード)」と「聖戦(グエッラ・サンタ)」の時代(海賊行つづく/イタリア、起つ/ノルマン人がやって来た!/イタリアの海洋都市国家/アマルフィ、ピサ、そしてジェノヴァ/ヴェネツィアの海賊対策/「十字軍」時代/「やられない前にやる」/最後の十字軍/イタリアの経済人たち/交易商品/サハラの黄金)、第三章 二つの、国境なき団体(「救出修道会」/「救出騎士団」)、巻末カラー 「サラセンの塔(トッレ・サラチェーノ)」(リグーリア地方/トスカーナ地方/ラツィオ地方/アブルッツォ・モリーゼ地方/プーリア・バジリカータ地方/カンパーニア地方/カラーブリア地方/シチリア地方/サルデーニャ地方)、年表、図版出典一覧。
 新潮社、2008年12月20日発行、3,150円、A5判変型、350頁。

by daisenhougen | 2009-01-14 07:16 | 読書-詩歌小説評論他
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