小松裕「「いのち」と帝国日本 (全集 日本の歴史 第14巻)」を読んだ。
この巻の対象は1894年に日清戦争から1920年代までです。 ちょっと変わった区切り方ですが、著者はこの時代を「いのち」の序列化という視点から捉えようとしています。 帝国主義が徹底される政策を「人びとのいのちに序列をつけ、一方は優遇し一方は抹殺するという政策を実施し、それを人びとに当然のこととして受容させていく政策のことである」としています。 そしてそれは日本人のいのちだけでなく、植民地、沖縄やアイヌ民族、さらにはハンセン病患者といった人々のいのちの序列化を意味しているのです。 その要因を「文明」意識、「民族意識」、「国益」、「ジェンダー」、「健康」ということに求め、分析しています。 従来の政治的文書によるのではなく、「無名」の民衆の残した記録を丹念に掘り起こすことによって記述していく方法をとっています。 けっして支配層の上からの視線ではなく、民衆からの視点からに貫かれた素晴らしい著作でした。 しかも従来のこういった立場から書かれた民衆礼賛一点張りといった著作でもありません。 「日々の生存のために格闘し、いのちをつなぐことに精一杯だった人びとも、基本的には支配層が提示する帝国日本の発展の方程式を受け入れ、それに同調し、帝国意識に染められていったことである。それだけでなく、「いのち」の序列化を内面化することによって、「日本人」以外の人びとのいのちが喪われることに不感症になっていったからであった」とキチンと民衆側の問題点もキチンと指摘し歴史的公平さも忘れていないのはさすがです。 最後に「いのち」の序列化に身をもってあらがった人物は、「無名」の人びとが多いとし、それを「無名」のままにしてきたのは歴史家の責任であるとしているのも納得です。 わたしたちも「田中正造の指摘した「非命の死者」の叫びに耳を傾けること」を心がける必要がありそうです。 わたしには納得の一冊でした。 この全集の好調さは継続中です。最後の2巻もこの調子で突っ走って欲しいですね。 著者の小松裕(1954-)さんは日本近代思想史専攻で熊本大学教授。田中正造の思想研究などが中心テーマのようです。 目次:はじめに 「いのち」の序列化、第1章 「いのち」と戦争、第2章 「いのち」とデモクラシー、第3章 「いのち」とアジア、おわりに、参考文献、所蔵先一覧、年表、索引。 小学館、2009年1月31日初版第1刷、2,520円、A5、386頁。
by daisenhougen
| 2009-02-07 09:17
| 読書-詩歌小説評論他
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